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 column "peace wind"第5回

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知ること――皐月の空の下で

凧 九(元ニチメン)

 日本の伝統的な木造建築は「屋根の反り」そして「軒反り」こそ、美と技術を象徴するもの。ここに、昔の大工が精魂を傾けて拘った。―――と、34件を超える古社寺の保存修理に携わってきた、宮大工の松浦昭次氏は言います。
木造建築に関しては、美意識も技術も、昔のほうがはるかにすぐれていた、という氏は、どのように昔の大工が知恵をしぼったか、そして大工ではない一般の私たちが、どこを見ればその工夫と知恵の一端を知ることが出来るかを、具体的な社寺に即して説明してくれます。(『宮大工と歩く千年の古寺』祥伝社)

 建物にはまったく興味を持たなかった私でしたが、松浦氏に古社寺の工夫の数々を教えてもらって、一度見に行ってみようかと思い始めました。未知の世界を知ることは、楽しいものです。けれど、知るということは、これだけしか知らない、これだけしか出来ない自分を知ることでもあります。知りたくないことも、私たちは知ってしまいます。知識が増えさえすれば、世界は隈なく見渡せるようになると思っていました。しかし実は、知れば知るほどこの世は、理解できないこと、愚かしいこと、ひどいことに満ちています。知ることは楽しいばかりではありません。知ることは、恵みでもあると同時に、悲しみでもあるのです。

 けれど悲観的にばかり考えるのは、よしましょう。もしも、この世のすべてが楽しいことばかりで、問題のすべてが解決済みであったとしたら、果たして、楽しいことを素直に楽しいと感じられるでしょうか。ただ退屈を託(かこ)つばかりでしょう。世界には、まだまだ私たちのささやかな力や才能を寄せ合って、立ち向かっていかなければならない問題が尽きません。私たちは、世界から必要とされています。小さな力かもしれませんが、決して無力ではない。知る悲しみを、行動によって生きる喜びに変えることが出来ます。知る喜びを、行動へのエネルギ―にして。

 皐月の空に、きっと美しく映えるだろう昔の大工の誇らかな仕事、屋根の姿。では、重い腰を上げて、未知の世界を知る旅に、出かけてみることにしますか。
近日、近日。

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